だむち~だって無知なんだもん~

底の浅い私、さくらだ が気になった主に漫画やアニメ、ゲームをぐだぐだと語っています。

『鬼滅の刃』は面白がった人の勝ち⑥

9.アニメ版『鬼滅の刃』の分かりやすさを面白がる


さて。


ようやく、本編の面白さ語りです。



まずはアニメ版。


アニメ版『鬼滅の刃』は第1期26話で構成されていますが、これは原作であるコミック版『鬼滅の刃』では7巻序盤までのお話となっています。


コミック1巻につき、アニメ約4話。


これは長い!



実際、コミックから入った人は「アニメ版はテンポが悪い」、「原作の勢いをアニメは殺している」といったネガティブな意見も耳にします。


ただ、


アニメ版の良さの真骨頂もここにあると思います。


「アニメ版は絵が丁寧」「アニメーションの動きが綺麗」、これも当然アニメの方が描写が長くなる理由のひとつにはなっているんですが、


誰が見ても分かりやすい


とにかく、ここに尽きるんではないでしょうか。


アニメ版『鬼滅の刃』は、とくかく、一度観たら、するすると話が頭に入ってくるんですよ。だから、キャラクターの気持ちの動きに集中して感情移入ができる


これって、アニメでは大事な要素で、コミックは読んでいて「ちょっと今のところ分からないな」と思ったら邯鄲に前のページに戻ったりできるんですが、アニメのは多少分からなくても戻らずにそのまま観るしかないんですよね。


録画や動画といった巻き戻せる媒体でアニメを観ている人もなかなか、巻き戻してまで観直す、ということはしないと思います。


その点、アニメ版『鬼滅の刃』はとにかく分かりやすく作られていて、その心配がありません。



個人的には、ここを堪能することこそがアニメ版『鬼滅の刃』を面白がるポイントだと思いました。


では、もう少しこの作品の「分かりやすさ」を追ってみましょう。



10.ストーリーを分刻みで読むことで見えるアニメ版『鬼滅の刃』の「分かりやすさ」


アニメ版『鬼滅の刃』が、コミック版に比べて展開がゆっくりだ、という話を前述しました。確かに、比べると、コミック版のテンポの良さが際立ちます。


ただ、裏を返せば、
アニメとして、あえて最も分かりやすいテンポを意識した
ともいえます。


では、実際にどのくらいの進行テンポなのでしょうか。



ここでは、1話を1分ごとにシーンを区切ってみます。


話を分単位で区切るのは映画分析で使う手法だそうで、映画ではだいたい1分で1シーンが展開されるテンポだと観客が見て分かりやすいそうです。


これをアニメ版『鬼滅の刃』第1話に当てはめるとこんな感じです。


画像だと見づらいかもしれませんので、テキストだとこうです。


01  炭治郎、雪山の中を瀕死の禰豆子を背負って歩く


02 (回想はじまり)炭治郎、炭を売りに家を出る。母との会話


03  炭治郎、弟、妹と会話。


04  炭治郎、禰豆子と会話。父を失ったことを語る。


05  炭治郎、山を降りて村にはいる。炭を売り、頼みごとを聞く。鼻が利く描写。


06  炭治郎、夜になり山に戻ろうとする。山の手前で家に泊めさせられる。


07  家主、炭治郎に鬼と鬼狩様について語る。


08  翌朝、晴れた雪山をのぼる


09  炭治郎、翌朝山を登り家へ戻る。禰豆子と弟の死体を見つける。家の中に母と弟妹の惨殺死体


10 (回想おわり)炭治郎、瀕死の禰豆子を背負って走る。目覚めて暴れる禰豆子。二人とも崖から落ちる。


11  雪で助かる炭治郎 禰豆子が襲ってくる


12  禰豆子の体が大きくなり、力が強くなる。襲いながら涙を見せる禰豆子。


13  謎の剣士、不意に禰豆子に切りかかってくる。かばう炭治郎。剣士、なんなく一瞬で禰豆子を奪う。


14  炭治郎、禰豆子を返してもらおうと剣士を説得する。


15  剣士、禰豆子は鬼でありもう治らないと断じる。炭治郎、土下座をする。


16  剣士、怒りを爆発させる。守るなら力を尽くせと叱咤。


17  剣士、禰豆子に剣を突きつけ炭治郎に怒りをうながす。禰豆子を剣で刺す。


18  炭治郎、剣士に向かって走る。斧を分からないようにいずこかへ投げつつ、剣士には拾った石を投げつける。


19  剣士、炭治郎を剣の柄で殴り昏倒させる。剣士の顔の脇を斧がかすめる。禰豆子、気絶した炭治郎をかばう。


20  禰豆子、剣士と戦うが昏倒させされる。炭治郎、気絶中に家族に励まされ目を覚ます。


21  剣士、富岡と名乗り、鱗滝を紹介して去る。炭治郎、家族を埋葬する。


22  炭治郎と禰豆子、手を繋ぎ雪山を走って家から立ち去る。



どうでしょうか?



この1分刻みの描写から見えてくることがいくつかあります。



A)決してテンポは遅くない


 見てのとおり、第1話を1分刻みで見ても、ストーリーや行動が動き続けていることが分かります。


開始1分目で、瀕死の禰豆子を背負って雪山を歩くというショッキングなシーンを見せつつ、その後は、そこに至るまでの炭治郎の足跡を9分目までにしっかりと描写しています。


 回想シーンから戻った後は、2分もしないうちに禰豆子が鬼である描写を行い、その2分後には鬼殺隊、富岡が登場。


 鬼となった禰豆子をめぐっての炭治郎と富岡の激しい言葉のやりとり、そして対決を経て、富岡の理解を得たのが20分目。


 その後、2分で、家族の埋葬から新たな旅立ちへとストーリーを手仕舞いしています。


 この22分が、コミック版の第1話52ページに相当します。


 丁寧ではあっても、決してテンポが悪い描写だとは思いません。



B)話は極力一本道で


 第1話だから、ということもありますが、場面描写の視点が大きく動かない、ということも特徴的です。


 前半、常に炭治郎をフレームに収めており、私たちは炭治郎を中心にすえて物語を見れば内容が分かるようになっています。


 また、時系列がシンプルに流れていることも見て取れます。


 出だしこそ、インパクトを与えるために、雪山を瀕死の禰豆子を背負う炭治郎を出し、その後一度回想シーンで時間を戻しますが、そこからのストーリー展開は、常に時系列どおりに進行します。


 当たり前のようでいて、ここまで徹底して一本道で描き、かつ観る側を退屈させない描写をする、というのはなかなかに難しいことだと思います。


 裏を返せば、アニメを見慣れた人にとっては、ここを「単調だ」と捉える可能性はあります。でも、繰り返しますがこの作品は「アニメ界の高尾山」なのです。普段アニメを見ていない人にも伝わる導入として、この手法は非常に効果的に感じます。



C)通常シーンとアクションシーンは緩急をつけて


 Aでは、1分刻みでも、話は動き続けている、という話をしましたが、その一方で、展開の緩急もしっかりつけている点も見逃せません。


 見どころは後半部分。


 富岡が登場したあと、炭治郎が鬼となった禰豆子を助けてくれるよう懇願するシーンは、富岡の叱咤を中心にすえて大きく動きをとりません。


 しかし、戦闘を開始した18~19分では、炭治郎が斧を取りに走り出した後、一気に展開が動きます。斧を投げつつ(直接描写はなし)、フェイントで石を富岡に投げつけ体当りをしかける、それを剣の柄で叩き落し失神させる富岡、直後に富岡の脇をかすめ樹に刺さる斧。一瞬の隙を見逃さず富岡の腕をすり抜け炭次郎をかばいに入る禰豆子。


 流れるような展開に息を呑みます。


 実は、これだけの激しいアクションでありながら、他のアニメ作品と比べても十分に丁寧な描写を続けているのですが、前のシーンの描写との緩急の差で、実際のスピード以上に失踪感のある展開になっているのです。


ここにも、面白さを分かりやすさに変換する工夫があって唸らされます。


分かりやすさのポイントはまだありますので、次回も続けたいと思います。


(つづく)



※本記事で掲載されている画像は「吾峠呼世晴『鬼滅の刃』/集英社・アニプレックス・ufotable」より引用しています。

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