『鬼滅の刃』は面白がった人の勝ち⑦
11.登場人物の出し方に見る「分かりやすさ」
『鬼滅の刃』には、非常に多くの人物が登場します。
そもそも、主人公の炭治郎、禰豆子の他に、九柱、十二鬼月と出てくるわけですから当然と言えば当然ですが、7巻序盤までが対象となるアニメ版ですら、公式サイトを見るとなんと36キャラの名前とキャスティングが説明されています。
(なぜか、産屋敷耀哉がいません・・・)
それでも、私達は、見ていてキャラクターを覚えるのに、ほぼほぼ苦労しなかったかと思います。
それは、ストーリー展開の妙があってこそです。
ということで、舞台ごとに分けて、主要キャラとして出てくる人物・鬼を整理してみました。
ちょい役だったり、前回の流れで登場するだけだったりする場合は除いています。
見てみると、
前半の登場キャラの密度の低さが分かります。
3話までは、ほぼ鱗滝左近次だけ知ってればよいシンプルさ。
そして、ポイントとなるのは、藤襲山、北西の町。ここでは、鬼との対決だけを注目しておけば問題ないつくりになっています。
もちろん、最終選抜には、善逸やカナヲが登場していたり、選抜に合格したのは見た目4人なのに、鬼殺隊のトップ産屋敷耀哉が「5人も生き残った」と意味深な台詞を言ったりと、見る人が見れば、「もっと主要とすべき登場人物は多いじゃないか」という考え方もあるかと思います。
ただ、この読み取り方は、
高尾山で言えば、徒歩で登る中級者向けの登山コースです。
普段アニメを見ない人にとっては、アクションシーンをともなうストーリー展開はどうしても場面転換が多くなるため、ともすれば何が起こっているか混乱してしまう可能性もあります。
バスやケーブルカー、リフトのような補助があった方が誰もが登山を楽しみやすいように、細かい設定に気にしなくても物語を楽しめる、というのは人気作品の大事な要素なのかと思います。
そこで、スムーズに物語を見てもらうために、最終選抜では、ひたすら手鬼との1vs1のバトルを描き続けています。
さらに、北西の町に入っても、沼の鬼の三位一体の戦いに単独で(禰豆子の助けは入りますが)挑みます。
この2回の戦闘によって、視聴者は、炭治郎の使う水の呼吸がどのような描写をするか、戦闘シーンがどのように描かれるか慣れていくことができます。
いわば、この2つの戦闘はチュートリアルなんです。
その意味合いでは、応用編となるのが浅草編の「vs矢琶羽、朱紗丸」です。
ここで初めて、鬼の方も必殺技「血鬼術」を使えることが分かります。
しかも、戦う相手は2人。
コンビ技も駆使してくるため、アニメーションが丁寧に描かれていても、なかなか動きについていくことは大変です。
ただ、炭治郎の水の呼吸はすでに動きを見ていますので、その分、敵のコンビネーションに集中することができます。
そして、敵の攻撃が分かることで、炭治郎の対抗手段も把握できるようになっています。
上手いし、分かりやすい!
登場人物のコントロールで特筆すべきは
主人公格である、善逸、伊之助の登場タイミングです。
OPでもあれほど目立っている彼らですが、
登場するのは、なんと、
11話の「vs響凱」編からです。
「vs響凱」編は、味方は炭治郎に加え、善逸、伊之助の3人が場面を切り替えながら戦うという、一気に複雑さを増した展開となります。その上、鬼の方も響凱以外に2体徘徊している。
ただ、これまで、段階を踏んで鬼殺隊vs鬼の戦いを見てきましたので、さほど混乱せずに
把握できるのではないでしょうか。
二人の登場をここまで引っ張ってきた結果、よりスムーズに作品を視聴することができるのです。
しかし、真に恐ろしいのは、
この「vs響凱」編でさえも所詮チュートリアル
ということです。
なんと言っても、
アニメ版『鬼滅の刃』のクライマックスは「那田蜘蛛山」編
です。
初めて対戦する十二鬼月、下弦の伍 累、そしてその「家族」である父、母、兄、妹となんと5体の鬼との戦い。対するは、炭治郎、禰豆子、善逸、伊之助に加え、いよいよ九柱である義勇、しのぶ、さらにはカナヲも登場し、その他鬼殺隊まで動員する、という今までの戦いが霞んでしまうくらいの大バトル展開です。
ここでは、極力バトルが単発で起きるように描写をしていますが、場面転換がひっきりなしに行われます。鬼殺隊も鬼もバンバン必殺技(呼吸の型、血鬼術)を使ってきます。
それでも、あまり混乱なく見ることができるのは、やはり、この登場人物のコントロールが大きな役割を果たしているんじゃないかと思います。
ちなみに
22話の九柱勢ぞろいは、
チュートリアルが終わったことの証明であると言えます。
全員を登場させることで、いよいよ本番が始まるというワクワク感を出しています。
いかがでしょうか。
「分かりやすいさ」の理由の一つが、かいま見えたのではないかと思います。
(つづく)
※本記事で掲載されている画像は「吾峠呼世晴『鬼滅の刃』/集英社・アニプレックス・ufotable」より引用しています。