ゲームブックの煌めき、再び?⑬
ようやく、タイトルに偽りのない内容に少しずつ触れられるようになった さくらだです。
今回は、ゲームブック「火吹山の魔法使い」がどのように面白いか?について掘り下げてみたいと思います。
40.「冒険」、「財宝」それだけで旅立つ理由は十分!
「火吹山の魔法使い」の本をページをめくってみると、まず最初、バーンっと、アランシアの地図を見開きで見せつけて読者を圧倒させてきます。
火吹山、見つけられるでしょうか?
ついつい、特徴的な名称の地名が目についてしまって、結構すぐには見つからない、もしくは、早くも本来の目的を忘れてしまったりする、それくらいインパクトのある地図です。
ちなみに、火吹山は、右ページの左上の方に屹立しています。
こんな感じで、ページの最初の地図で、早くも、読者の心をファンタジー世界へいざなってくれます。
さて、では、「火吹山の魔法使い」がどんなお話かと言えば。
主人公は冒険者。火吹山に住む魔法使いが財宝を溜め込んでいると聞き、その財宝を手に入れるために火吹き山へやってきた。
・・・ん?
なんか、悪逆非道な魔法使いを退治する話、と思いきや、財宝目当て??
物語の冒頭部分を読んでみるとこんな感じです。
これほど危険な冒険に乗り出すのだから、よほど向こう見ずな冒険者でない限り、まずは山とその財宝についてできるだけ詳しく調べておくだろう。きみは、火吹山のふもとに行く前に、そこから二日ほどの場所にある地元のむらで人々と数日を過ごした。
(中略)
村人たちはたくさんの冒険者たちが火吹山への道を辿るのを見てきたが、戻ってきた者は本当にわずかだったという。行く手に大きな危険が待っていることだけは確かなようだ。村に帰ってきたとしても、ふたたび火吹山に戻ろうと考える者はいなかったのだ。
最初に書かれているのは、主人公が冒険者であること、そして、火吹き山がとてつもなく危険な山であることを教えてくれるのみです。
そして、冒険のヒントとして、こんな噂話を追加してきます。
噂の中にも真実はあるようだ。魔法使いの財宝は二つの鍵がかかった立派な宝箱にはいっていて、これを開く鍵は地下迷宮のさまざまな魔物によって守られているという。魔法使い自身は、偉大な力を持つ魔術師だ。ある者は老人だと言い、またある者は若者だという。その力の源は魔法の付与された一組みのカードからだとも、身に着けている黒い絹の手袋からだとも言われる。山の入口は、飲み食いにしか興味のない、頭の悪いいぼだらけの顔のゴブリンの群れが守っている。奥の部屋に進むにつれ、魔物は凶暴になってゆく。奥の部屋に向かうには、きみは川を渡らなければならない。定期的に渡し舟が出ているが、渡し守は取引をするのを好むため、金貨一枚はそのために残しておくべきだろう。地元の人々は、探索したときにしっかりと地図を書いておくように勧めた。地図がなければ山の内部で迷って途方に暮れてしまうだろう。
やたらと詳しかったり曖昧だったりする噂話は、冒険をわくわくさせる言葉に満ちていますが、TRPGを知っている人であれば、酒場の会話や噂話は情報の宝庫であることは当たり前のことでして、プロローグにして早くも冒険は始まっていたりします。
ここを読み飛ばす人もいれば、しっかりとメモを書き留める人、ポイントになりそうな情報だけピックアップする要領の良い人など様々ですが、「火吹山の魔法使い」が素晴らしいのは、この虚実入り交じった噂話を、冒険の途中でいやでも思い出させてくれる部分でしょう。
41.バランスが悪いのも計算のうち?シンプル明解な能力値
では、ここで「火吹山の魔法使い」でも採用されている「ファイティング・ファンタジー」での冒険者の能力値の種類と決め方、そして冒険中での扱い方について触れてみたいと思います。
冒険者が決める能力値は「技術点」「体力点」「運点」の3つです。いずれも高い方が優れていることになります。
技術点:戦士として腕前。戦いにどれだけ熟練しているか。
体力点:肉体の強さ。高いほどタフで、これが0になると死ぬ。
運点 :生まれつきの運の強さ。
じつにシンプルで分かりやすいです。
つまり、戦闘をはじめとした冒険の基本的な成功判定は「技術点」によって行われ、失敗やペナルティは「体力点」に跳ね返って、これが0になると死ぬ。そうならないように行動する中で、要所で「運点」を使った運だめしを駆使することで展開を有利に進める。
そんな遊び方が求められるわけです。
ところが。
この点数の決め方が、とてもワイルドなのです。
技術点:6点 +「サイコロ1個の出目」点
→ 7 ~ 12点
体力点:12点 +「サイコロ2個の出目の合計」点
→14 ~ 24点
運転 :6点 + 「サイコロ1個の出目」点
→ 7 ~ 12点
どうでしょう?
ゲーム慣れしている方であればピンとくるかと思いますが、特に判定の根幹となる技術点の振れ幅の大きさがスゴイのです。
もう少し、説明をつづけましょう。
技術点の基本的な使いどころは戦闘です。
戦闘では、自分の技術点と敵の技術点、それぞれに対してサイコロ2個を振り、その合計点を足した数値、これを「攻撃力」として点数を比べます。(これを「戦闘ラウンド」と呼んでいます。)
攻撃力が同じ場合は引き分けで何も起こらず。
そうでない場合、攻撃力の高いほうが勝ったことになり、負けた方は「体力点」を2点引きます。
この戦闘ラウンドを繰り返して、どちらかの体力点が0になれば戦闘終了です。
もちろん、自分の体力点が0になった場合はそこでゲームオーバー。
ここで試しに、よく出てくる敵ゴブリンを相手にしてみます。
ゴブリン 技術点:5 体力点:3
戦闘ルールに照らしてみると、このゴブリンを倒すためには、戦闘ラウンドで2回勝って、体力点を2点☓2回引いて0にする必要があります。(1点分はオーバーキル・・・)
さて、最初の技術点を決めるサイコロ1個の出目でこのゴブリン退治の難易度はどのくらい変わるでしょうか?
ヘッポコ剣士 技術点: 7
→ゴブリンとの技術点差 +2
超一流剣士 技術点:12
→ゴブリンとの技術点差 +7
超一流剣士の方が圧倒的に強いことはわかりますが、まだふんわりとしていますので、1戦闘ラウンドあたりの勝率を出してみます。(引き分けは除外します。)
ヘッポコ剣士 勝率:73.5%
超一流剣士 勝率:98.8%
ヘッポコ剣士、意外と出来るっ
ただ、1撃で倒せればよいのですが、このゴブリンは2回勝たないと倒せない。
では、勝つことは前提として(死んだら終わりですから!)、勝った時にどれくらい自分の体力点が削られている可能性があるか、「想定被ダメージ」を考えてみましょう。
ヘッポコ剣士 想定被ダメージ:約1.0点
超一流剣士 想定被ダメージ:約0.0点
ヘッポコ剣士は多少傷を負う可能性がありますが、超一流剣士はまずかすりもしない、ということがわかります。戦闘が連続してくると、この2人の冒険には結構違いが出てきそうです。
それでもゴブリンだけがいる洞窟ならヘッポコ剣士でもなんとかなりそう。
ところが、技術点の差がとんでもないのは、ここからです。
ちょっと手強い、トロールに登場してもらいましょう。
トロール 技術点:8 体力点:4
体力はさほどではないですが、技術点がヘッポコ剣士を凌駕しています。この時の両剣士のトロールに対する戦闘ラウンドでの勝率はこんな感じ。
ヘッポコ剣士 勝率:37.6%
超一流剣士 勝率:94.3%
ヘッポコ剣士の化けの皮感と、超一流剣士の完璧さがハンパない!
では、想定被ダメージも見てみます。
ヘッポコ剣士 想定被ダメージ:約6.6点
超一流剣士 想定被ダメージ:約0.2点
ヘッポコ剣士、1回で約7点体力持っていかれる・・・。
剣士の体力点の平均値は19点(12+サイコロ2個)ですから、こんなのに2,3回出会ったら絶望的です!
まあ、出会うんですが。
さらにこの冒険、中盤では、中ボス(名前は伏せておきましょう)と言える敵に鉢合わせする可能性もあります。
中ボス 技術点:10 体力点:10
見るからにヤバい!ヘッポコ剣士、逃げて!
でも、ここでは戦ったらどうなるか、をシミュレートしましょう。
ヘッポコ剣士 勝率:17.2%
超一流剣士 勝率:73.5%
さすがの超一流剣士も無傷とはいかないですが、ヘッポコ剣士の絶望感に比べれば全然余裕です。
そのヘッポコ剣士の絶望感は、想定被ダメージのほうが分かりやすいです。
ヘッポコ剣士 想定被ダメージ:約47.9点
超一流剣士 想定被ダメージ:約 3.6点
「体力点」の最高は24点ですから、ヘッポコ剣士は中ボスの強さに気付いた時点で、戦う前から逃げた方が得策なことがよくわかります。(逃げられるかはともかく・・・)
そんな感じで、「火吹山の魔法使い」では、最初のサイコロの一振りでここまで冒険の性質が大きく変わってしまうのです。
・・・これはクソゲーでは?
いえいえ、これこそが、アナログゲームである「ゲームブック」の魅力であり、「火吹山の魔法使い」をはじめとした「ファイティング・ファンタジー」の奥深さなのです!
42.子供は子供の、大人は大人の楽しみ方で楽しめる!
さて、そうは言っても、実際のところは、ここまで確率計算をして冒険に臨む人はまれで、普通は、「数値が高いほうが良いんだろうな」ぐらいな気持ちでサイコロを振って、一喜一憂しつつ冒険に挑むかと思います。
実際、それで良いんです。
そして、この「火吹山の魔法使い」が優れているところは、どちらにしても、たいてい最初の冒険は失敗するようにできているところです。
(その意味では、1回で成功した人は、本当の意味でこの作品を楽しめていない可能性すらあります。)
冒険に失敗した人は、きっとこう振り返るはずです。
「技術点や体力点が少なかったからダメだったんだ」
「謎解きやアイテム集めにヒント集めが不十分だったか」
「あっちのルートの方が正しかったのかも」
そのうえで、2回目の冒険は、その失敗の轍を踏まないように、対策を練ります。
「気に入った能力点が出るまでサイコロを振り直そう」
「いやいや、もうサイコロでいい目が出たことにしちゃおう」
「ん、待てよ、いっそ戦闘は全部勝ったことにすれば良いのでは?」
「あそこの分かれ道、一度選んだら引き返せなかったけど、番号控えておいて戻れるようにしておこう」
「選んだらヤバそうな選択肢は、直前で栞を挟んでおこう。」
いやいやいや、それやったら冒険じゃないじゃん!
それルール違反じゃないの!?
大丈夫です!
そういったことも想定内です。
むしろ、それが出来るのがアナログゲームの大きな魅力の一つだと思っています。
特に、子供の場合、まず、そもそも確率計算や、有利不利の判定まで考えが及ばないケースが多いのですが、でも、話の続きを知りたいし、冒険も成功させたい。
ゲームブックは、やってみると、年齢に限らず歯ごたえのある内容に驚かされ、ワクワクする一方で、解けなかった場合に、次はなんとか解き明かしたいと思ったとき、正攻法で何度でもチャレンジすることはもちろん、ちょっとズルしてルールの外から調べてみて、ゴールまでの道のりをショートカットする事もできます。
解けないままで終わってしまうよりも、時にはちょっとしたズルをしてカラクリや種明かしに気づきながら、一つの作品として味わい尽くす、そんな懐の深い楽しみ方ができるのもゲームブックの素晴らしさの一つではないでしょうか?
43.大人のゲームブックのたしなみ方?
さて、「ズルしても良いのでは?」と書きましたが、大人のゲームブックの楽しみ方はその先にある、と思います。
いえ、これはゲームブックに限らずアナログゲーム全般の話になるかもしれません。
話が少し逸れるうえにややエッチな話になりますが、以前、漫画家島本和彦さんの作品にあった名言でこんな感じのものがありました。(原典を見つけられず、うろ覚えですみません・・・)
それは、学園ものの漫画で「スカートめくり」に関する話題で出たセリフです。
「スカートめくりをしてはいけない」「スカートめくりをしても良い」という二つの校則を考えたとき、それぞれに「スカートめくりをする」「スカートめくりをしない」という選択肢がある。
「スカートめくりをしてはいけない」という校則で「スカートめくりをしない」ことは当然だ。だが、「スカートめくりをしても良い」という校則であっても、俺はスカートをまくらん!
これですよ、これ!
おしなべて、すべてのアナログゲームは、その性質から、ルールミスや手違い、そしてズルやイカサマが可能な仕様になっています。
それに対して、デジタルゲームは、チートは除くとしても、基本的にミスやズルは発生しない作りになっています。
一見するとデジタルゲームのほうが優れているようにも感じますが、アナログゲームではズルは出来てもあえてしない、という大人の暗黙の了解が楽しめるのです。紳士・淑女のたしなみ、と言えるかもしれません(おおげさ)。
ボードゲームでは、それはコミュニケーションの楽しみ方の一つにあたりますが、1人で遊ぶゲームブックでは、それは自分との戦い、ロマンにつながります。
先程の例で言えば、技術点7のヘッポコ剣士が出来たとします。
ここで、
「コイツは冒険前に死んだ」
として作り直しても良いですし、
「きっと一攫千金を狙って無茶な冒険に出たんだな、よしコイツの夢を俺が叶えてやる!」
と意気込んでそのままプレイを開始しても良い。
冒険中にしても
「あと一撃で勝てるのにこっちも死にそう・・・。よし、ここは勝ったことにしておこう」
と、自分のズルな行動に目をつぶっても誰も否定しませんし、
「勝てば官軍、負ければ死亡、サイコロ頼む!」
と、分の悪いにも関わらずサイコロの目にすべてを委ねて玉砕してもOKなのです。
大事なのはただ一つ。
それを選んだことで、自分が楽しめること。
「火吹山の魔法使い」には、そのジレンマとロマン、達成感を楽しめるアナログゲームの真髄がガッツリと仕込まれていますので、そこを楽しむのがたまらないのです。
44.マッピングがヤミツキに?!
最後にもう一つ、「火吹山の魔法使い」の魅力をあげるとすれば、マッピングの楽しみでしょう。
前でも引用しましたが、地元の人々からの情報で「地図を書け」というアドバイスがでてきます。
地元の人々は、探索したときにしっかりと地図を書いておくように勧めた。地図がなければ山の内部で迷って途方に暮れてしまうだろう。
これは、TRPGでのお約束であるとともに、この作品を楽しむためのヒントにもなっています。
基本的に、初期のゲームブックは言葉だけで道筋を表現するのがメインで(後にこの表現の難しさから予め地図をつけておく作品が増えましたが)、マッピングに向いていないものも多いのですが、「火吹山の魔法使い」では、マッピングに適した表現を使い、またマッピングをしたくなるような冒険者の行動を追体験させてくれます。
この体験は、興味のある方はぜひネタバレなしで試して欲しい部分です。
「あれ、ここって・・・こうなっていたのか!」
とか
「この先が気になるけれど、この冒険じゃ行けそうにない。気になるー!」
といった、謎解きとワクワクの快感を得られること間違いなし!
ということで、「火吹山の魔法使い」の魅力、少しでも伝わったでしょうか?
ちなみに私の場合は、以前プレイしたことがあり、久しぶりの再プレイ。
技術点10体力点17運点8 と良くも悪くもない目が出て冒険出発。
ほぼ、最初と最後、(後、飛びかかってくる老人!)以外は忘れていましたが、原作者の目論見は覚えていたのか、上手く立ち回って1回でクリア出来ました!
マッピングして出来上がった地図を満足気に見返しています(笑)
みなさんもぜひ、ゲームブック体験を!
(つづく)