コミック『五等分の花嫁』を読んでみた⑦
8.『五等分の花嫁』と『ヴァン・ダインの二十則』その1
みなさんは、「ノックスの十戒」あるいは「ヴァン・ダインの二十則」という言葉をごぞんじでしょうか。
どちらも推理小説家の名前からとったものでして、推理小説の肝である謎解きを作るにあたって気をつけないといけない点を、10個ないし20個の規則にまとめたものです。
例えば、犯人が事件解決の直前で初登場したら「そんなん分かるか!」と誰だって白けますし、密室殺人のトリックが「実はノミの大きさまで小さくなれる奴がいて、ソイツが中に入って殺したんだよ」というオチだったら皆怒ってしまいます。
そんなタブーを犯さないように戒めたルールが、「ノックスの十戒」「ヴァン・ダインの二十則」です。
どちらも、Wikipediaに詳細が書かれています。これだけ読んでも、かなり面白いです。
さて。
前回、『五等分の花嫁』を「これは、ラブコメ要素を取り入れたミステリーなのでは?!」と思ってしまった私は、浅はかにも「じゃあ、『ヴァン・ダインの二十則』にも当てはまっているのでは!?」と考えた訳です。
ということで、Wikipediaの「ヴァン・ダインの二十則」の項目を引用させていただきながら、ごり押しで解釈していきたいと思います。
でも、もとの規則が殺人事件の犯人捜しを想定していますので、こんな感じで読みかえていきたいと思います。
探偵:花婿
犯人:花嫁
殺人:恋愛
事件:告白
死体:フラレ役
などなど
・・・これ、本当に最後までたどり着けるのだろうか。
1.事件告白の謎を解く手がかりは、全て明白に記述されていなくてはならない。
あははは。
「事件」を「告白」に読み換えただけで、二十則、一気に緩くなったなぁ。
いや、でもこれ、しょっぱなから、かなり核心を突いているのではないでしょうか?
この作品、私が『五等分の花嫁』に感じていたのものも、まさに花嫁の手がかりは全てテーブルの上に上がっているはず!という思いでした。
2.作中の人物が仕掛けるトリック以外に、作者が読者をペテンにかけるような記述をしてはいけない。
おお、これはそのまま読めます。
この作品、作者は感情的にも経緯的にもより多くの読者が納得できるエンディングを演出しようと物語を紡いでいる感じがします。
きっと読み返したら「ああ、なるほど」という結末が待っていると確信しています。
3.不必要なラブロマンスを付け加えて知的な物語の展開を混乱させてはいけない。ミステリーの課題は、あくまで犯人を正義の庭に引き出す事であり、恋に悩む男女を結婚の祭壇に導くことではない。
うわっ、地雷踏んだか?!
まさか、二十則の中にラブロマンスNGが入っていたとは・・・
ヴァン・ダインめー
・・・いや。
よくよく考えてみると、実は、この項目こそ『五等分の花嫁』にとって非常に大切なミステリー要素なのかも知れません。
従来の推理小説のタブーでは、殺人事件に対して、不必要な恋愛要素を絡めてしまうことで事件解決がうやむやになる愚を指摘しています。
対して、『五等分の花嫁』は、
ラブロマンスが必須であるラブコメものとして作り上げ、
そのうえで、
『恋に悩む男女を結婚の祭壇に導くこと』自体を目的
にしているのです。
したがって、『五等分の花嫁』では3のルールは完璧にクリアになっています。
むしろ、あまりに見事にこのタブーを逆手に取っていて、実は、このあたりを意識して作品を作っているのではないか、と邪推してしまうくらい(さすがに、それはないか)。
4.探偵花婿自身、あるいは捜査員脇役の一人が突然犯人花嫁に急変してはいけない。これは恥知らずのペテンである。
実は、俺が花嫁だったんだよ!!
・・・いや、さすがにないない。
あ、でも、風太郎が花嫁はともかくとして(笑)
例えば、幼馴染の竹林とかが「実は・・・」という展開は確かに白けますよね。
うん、これはクリアでしょう。
5.論理的な推理によって犯人花嫁を決定しなければならない。偶然や暗合、動機のない自供回想シーンによって事件告白を解決してはいけない。
これ、無理やり解釈すると、なんとなく分かる気もします。
「こうなるといいな」という誰かの想いが一人歩きして、嘘の回想シーンとして描写される、なんてパターンは漫画では良く見かける手法です。
この嘘の回想シーンが告白相手を決める、なんてなったら本末転倒でしょう。
そう考えると、『五等分の花嫁』の登場人物は結構リアリストが多いのか、逆に妄想を自制しようする場合の方が多く、そもそもラブラブシーンを思い描いて涎が出るなんてシーンを意外に見かけないので、この結末をたどる可能性は低いといえます。
五月は別の理由でしょっちゅう涎たらしてますが。(だが、それがいい)
さてさて、考えなしに二十則の序盤5つに当てはめてみましたがいかがでしょう?
3で思わずのけぞってしまいましたが、ここを含め、なんだか二十則にうまくのっけられるんじゃないか、と見通しが立ってきました。
でも、なにより、こういう見比べ方ができちゃう『五等分の花嫁』、面白いです。
次回も、このまま続きを見ていきたいと思います。
(つづく)
※本記事で掲載されている画像は「『五等分の花嫁』/春場ねぎ/週刊少年マガジン」より引用しています。